EU離脱の連鎖反応は起こるのか。イタリア国民投票で問われるもの | Akatsuki Financial Report
  1. TOP
  2. ユーロ
  3. EU離脱の連鎖反応は起こるのか。イタリア国民投票で問われるもの

EU離脱の連鎖反応は起こるのか。イタリア国民投票で問われるもの

|
free_m

イタリアは12月に憲法改正の是非を問う国民投票を控えている。レンツィ首相は今回の国民投票に進退を賭けることを明言しており、否決されれば満期である2018年を待たずしての辞職、並びに総選挙が実施されるという訳だ。しかし、レンツィの進退はイタリア国内だけに留まらず、2017年に総選挙を控えるEU主要各国に大きな政治的影響、並びに経済的影響を及ぼすことは確かであろう。

レンツィ首相の野望とイタリア上下院が抱えるジレンマ

matteo_renzi_november_2014_cropped
そもそも今回の憲法改正の議論の始まりは上下院に対等な力を持つイタリア議会が政治の捻じれを引き起こしていることが原因である。長きに渡って捻じれ続けた政治の舞台での出遅れは大きく、経済に底知れぬ悪影響を与えた。2016年現在、GDP成長率0.6%,公的債務資質が対GDP比133.2%はともにEU主要国では最低クラスである。そんな中で2012年に誕生したのが民主党のレンツィ首相である。政界編成に向けた大いなる野望を抱いた元フィレンツェ市長は民間投資を呼び込み、自国産業の保護、雇用税の減税により雇用を活性化する七色のプランを抱いたが、いずれも上下院での可決なしには成立は不可能であった上、第一党の民主党であっても連立政権の呪縛からは解き放たれることはなかったのである。ならばと持ち掛けたのが今回の国民投票。上院の定数を315→100人に減らし、地方の代表者などで構成させ、下院に議決権を集中させることで自らの政策の可決速度を加速させる狙いだ。一か月に一つの経済政策を志向していくと明言した通り、意のままに下院を操れる議決権を手にすると経済回復に向けた見通しにメドがつくだろう。逆に改正が否決された場合はレンツィが思い描いたプランは任期満了を待たずしてお蔵入りになってしまう可能性が高い。新興勢力の5つ星運動の影響で再選が確実ではないうえ、現在の銀行再建問題が長引くようだと責任問題を追及される恐れもある。したがって自らの進退を賭けることは国民への強いメッセージであり、当然の流れだったのかもしれない。

五つ星運動とEU離脱問題

 9月14日、イタリアの野党五つ星運動の指導者ベッペ・グリッロ氏が、科学教授を中傷したとして裁判所から禁固1年の判決を受けたことが分かった。写真は昨年5月、ローマで演説するグリッロ氏(2015年 ロイター/Remo Casilli)

9月14日、イタリアの野党五つ星運動の指導者ベッペ・グリッロ氏が、科学教授を中傷したとして裁判所から禁固1年の判決を受けたことが分かった。写真は昨年5月、ローマで演説するグリッロ氏(2015年 ロイター/Remo Casilli)

今、一番イタリアで評価されつつあるのがグリッロ率いる五つ星運動だろう。雇用不安定や増税を負わされた国民の中流から下流層を支持基盤にもつ政党だ。彼らの目的は雇用の安定、公的債務の改革、EU離脱であり、2012年のイタリア総選挙を皮切りに確実に地方で勢力を伸ばしてきている。2016年はローマ市長、トリノ市長を送り込むことに成功、現在は単独政党別で民主党に次ぐ第二の勢力となった(地方含む)。しかし彼らが身上とするEU離脱と銀行の不良債権問題は密接に関わっており、政権の座についたとて経済回復の保障はないのである。後述するベイルイン規則(銀行破綻時に債権の損失額の8%を投資家に負担させる規則)一つとってもそうである。国内で解決しようとすると投資家保護の観点から公的支出が増え、債務が膨らみ、金利が跳ね上がる可能性がある。市場にマネーゲームを挑まれ、外貨準備高が底をついたとき最悪の結末を迎える可能性もある。一方ベイルイン規則にのっとった場合でも、個人投資家の反発を招き、銀行の説明責任を問われる可能性もある。ECBの公的資金投入の可能性もあるのでデフォルトは免れても政権に怒りの矛先が向く可能性もある上、そもそも反EUを謳い文句としている五つ星運動にとっては公約違反である。

イタリアの銀行危機の深刻さ

 9月30日、イタリアに対し、経営難の銀行救済をめぐり公的支援をしないよう手厳しい注文を付けていたドイツ。しかしドイツ銀行の経営不安が表面化したことで、しっぺ返しをくらいかねない状況となっている。フランクフルトのドイツ銀本店で2015年6月撮影(2016年 ロイター/Ralph Orlowski/File Photo)

9月30日、イタリアに対し、経営難の銀行救済をめぐり公的支援をしないよう手厳しい注文を付けていたドイツ。しかしドイツ銀行の経営不安が表面化したことで、しっぺ返しをくらいかねない状況となっている。フランクフルトのドイツ銀本店で2015年6月撮影(2016年 ロイター/Ralph Orlowski/File Photo)

現在欧州で最も深刻な経済問題の一つとして語られているのが「ドイツ銀行への公的資金投入のタイミング」であろう。今後のドイツ銀に対する国政の動きは2017年のドイツの総選挙の結果を左右するともいえ、注目度が高いもののイタリア国内銀行の相次ぐ経営破綻も余談を許さないところまで危機感を募らせている。EU側はイタリア国内銀行への公的資金投入の前にベイルイン規則の適用を要求しているが、個人投資家に大きな負担を敷く結果になる公算が高いので今回の憲法改正法案は否決され、「反EU」を掲げる五つ星運動に政権交代を実現される可能性まで出てくる。しかしEUのガイドラインに従わなかった場合、個人投資家に多額の損失を負わせることとなってしまい、政権交代の機会を五つ星運動に与えてしまう可能性もある。現在の不良債権は3600億円と見積もられており、ウンクレディトが130億ユーロもの増資計画で自己資本を強化しようとしているが、イタリア中の銀行の自己資本を総額しても2250億ユーロにしかならない。そもそもの問題とは何だろうか。ウンクレディトやモンテ(50億ユーロ規模の債務株式化)のような大手は信用力も高く、いわゆる「大きすぎて潰せない」銀行であるのに対し、深刻なのは中堅以下の銀行である。もともとイタリアには地域を支えるために相互銀行や共同組合銀行が多く、融資中心の業務内容が主だったが、近年の低金利政策で利ザヤを稼ぐのが困難になったのが経営悪化の一因とも言える。さらには企業倒産で不良債権も積みあがってくると融資も困難になる悪循環が生まれてくる。Brexitも重なり金融システムに対する不透明性から預金を引き出す人も出てきた上、2016年時点で回収不能債権の引き当て不足金が総額4.1兆円に上るというとてつもないデータがでると市場は凍り付いた。7月のECBテストで烙印を押されたことを皮切りに金融危機のレベルにまで認識されるようになったが、一向に出口が見えないままだ。資本不足行の一時的な政府支援を行っているが、銀行の資本増強、不良債権処理の加速、信頼回復を成し遂げない限り再び日の目を見ることはないだろう。

問われるもの

gatag-00014088
現在、難民の受け入れ態勢の出遅れ、ユーロ導入後の低成長でEUと対立気味にあるイタリアが今回の憲法改正で大きく舵をきる可能性は高いといえるだろう。政治の捻じれだけでなくEUに対する個人の態勢が問われる機会であり、ベイルイン導入、難民受け入れといったEU側の主張を飲む代わりに銀行救済を含めた自国経済の安定を望むのならば賛成票を投じるだろうし、その流れは下院に権力を集中させ、レンツィ率いる野心家たちの技量が問われる結果となるだろう。しかし、反対派が多ければ間違いなくレンツィの夢物語は終焉を迎え、総選挙後に反EUを掲げる五つ星運動に未来を委ねることになるだろう。いざ離脱するとなるとGDPが2007年水準から9%も低下し、GDP比債務が130%を超える高齢国に将来的なビジョンがあるのかも不透明であるし、大手銀行の増資計画も頓挫する可能性が高いとみるのだがいかがなものだろうか。運命はイタリア国民の手に委ねられている